'73年3月20日に刊行された小松左京の書き下ろし長編SF『日本沈没』が、上・下巻で350万部を突破するという大ベストセラーになった。小松左京は、その当時からSFの大家で星新一、筒井康隆とともに「SF御三家」と呼ばれていた。『復活の日』『日本アパッチ族』『エスパイ』『果てしなき流れの果に』など、さまざまなジャンルをこなしていて、骨太の作品が多い。
『日本沈没』は、地殻の大変動で日本列島が沈んでしまうという近未来小説である。小説に記されていた変動が、地震や海底火山の噴火など現実面でも発生したため、注目されたのである。しかも、地球物理学の最前線の理論をもとにわかりやすく解説されていたため、物理学への入門書としても読まれた。具体的で詳細な科学データが引用されており、日本が本当に海に沈むかもしれないと読者を思わせるのに十分な説得力をもっていたのである。
経済の発展を実現していた日本が、突然起こった石油ショックや各地で頻発する公害により、生活基盤の脆さが露呈され、人々の心は不安ではち切れそうになっていた。こうした不安が、ショッキングな未来を描写している『日本沈没』にぴったりと重なり、一大ブームをまきおこしたのである。
本書を原作とした映画も年末に封切られ、翌年の興行収入トップを配録した。橋本忍の緻密な脚本に加え、黒澤明ゆずりのダイナミックな描写に定評のある森谷司郎監督、円谷英二亡き後の特種撮影も、中野昭慶がリアルに乗り切った。
このヒットを受けて、『エスパイ』『復活の日』と小松左京の小説は映画化された。小松左京は、'80年『さよならジュピター』の映画化で製作にもたずさわったが、小説の面白さとは全く異なり、愚作に終わった。
サラリーマン時代、仕事先の高松でこの映画を観たボクは、あまりのくだらなさに映画館の席から滑り落ちそうになった。SFマインドはどこかに消え、訳のわからない宗教団体の話に彩られる。マニア向けを考慮されたであろう特撮は確かに見応えがあったが、自己満足と自己完結を繰り返すのみで、こちらに感動を与えてはくれなかった。当時は珍しかったCGによる木星とユーミンの壮大な曲が流れるエンドロールを観ながら「船は船頭に任せよ」という格言を思い出した。 |